「来てよかったです。」
先々週の日曜日。
「そちらに、三八式銃が置いてあるようですが、触れますか?」
と、問合わせの電話がありました。
「どんな方が来られるのだろう。」と、少々身構えて待っていた所、かわいい小学生(小6、小1)連れのお母さんでした。
お母さんのお話では、息子さん(小6)が『ゴールデンカムイ』にはまっていて、その中に出てくる「三八式銃」にすごく興味を持っているということ。(『ゴールデンカムイ』を読んだことがなくて、慌てて調べたところ、「三八式銃」が出てきました。)
少年は、三八式騎銃を手に取り、重さを確かめ、古くて壊れかけている槓桿(こうかん)をガチャガチャと動かしています。
少々興奮していることを感じさせるその少年に、私は話しかけました。
「かっこいいよねぇ~。それに、人間の知恵や技術が詰まったすごい道具なんよね。」
「何をするために作られた道具かなぁ?」
少年は、答えました。
「狙うため。」
賢そうなその少年は、私の質問の意図に気付いているように感じられました。
「何を狙うためかな?」
銃を触る手を止めることなく、少し間を置いて、少年は答えました。
「・・・敵。」
「『敵』って、何?」
「・・・アメリカ兵かなぁ。・・・」
「なるほどねぇ。・・・」
「『アメリカ兵』って、何?」
「・・・。」
資料室に入って来るなり質問攻めに会い、内心イヤになったんじゃないかと思います。(笑)
「『アメリカ兵』も私たちと同じ、命ある『人間』なんよ。」
「この銃は、『人間』を殺すために作られた物なんよね。」
「かっこいいし、興味を持って調べるのは素晴らしいことだと思うよ!でもね、『人を殺すため。命を奪うために作られたものである』ことは、いつも頭の中に置いていてほしいと、こまさんは思っています。」※「こまさん」・・・管理人の呼称
そう伝えました。
「お人形がある~!」
小学校に入学したばかりの妹さんの声がします。
私は、「空襲」の話をしました。
三八式銃を触っていた少年(お兄ちゃん)もやって来て、いっしょに話を聴いてくれていました。
「この経験をされたおばあちゃんはこの時、どんな気持ちだったと思う?」
私は、少年に尋ねました。
少年は、いっしょに聴いていたお母さんの方に近付いて行きました。
「合ってるとか、間違っているとかは気にしなくていいんよ。こまさんだって、こんなこと、経験したことないから、分からないんよ。でもね、『想像する』ことが大事なんだと思うんよ。」
そう伝えると、
「こわい?」
と、少年は答えてくれました。
私は、「そうだよね。」と、受け止め、想像して考えたことを褒め、それから言いました。
「このおばあちゃんはね、『何も感じなかった。』って、こまさんに教えてくださったの。『戦争だから当たり前』と思っていたんだって・・・。」
「戦争はね、人の心まで奪ってしまうものなんだね。」
少年は、展示室の入口の方に歩いていき、置いてある椅子に腰かけました。
「お母さん、足がガクガクする・・・。」
私は、少年に心を寄せました。
少年にしてみれば、『爆弾が落ちて来る』とか『人が死ぬ』というようなことを本気で考えることなんかない平和が当たり前の日常から、突然そういうことを想像させられて、「ショック」を受けたのでしょう・・・
私は、少年の近くに行き、言いました。
「きれいな心をしているから、『怖い』と感じたんだよ!
ホントにすてきな心をもってるんだね!!
こまさんは、そんなすてきな心を大事にしてほしいと思ってるよ!!」
私には、賢く、心豊かな少年が、いとおしく感じられました。
その後、フィリピン戦に15~16歳で従軍し、悲惨な経験をした中村さんの話をしました。
最後は、終戦も知らずにジャングルの中を一人逃げ惑い、フィリピン人ゲリラに捉えられ、はりつけにされるという壮絶な体験。
その話は少年には衝撃が大きすぎたのか、途中から、三八式銃をガチャガチャ・・・
お母さんが真剣に話を聴いてくださいました。(笑)(でも、少年の「耳」はダンボになっていたようです。)
あとは、『義手』の持ち主の経験を話しました。
命が助かっても、戦争は、その後の人生に大変な悪影響を与えるものであることを考えてほしくて。
少年が、帰り際に私の所に来て、言いました。
「ぼく、夢に見そう…」
私は、少年の不安げな顔をじっと見ながら、ニコニコして言いました。
「だいじょうぶ!!」
「考えてん?! 夢の中で爆弾から逃げるとか、銃撃戦で殺されそうになるとか、そんな恐ろしい体験をしても、夢から覚めたら死んでない!!ちゃんと、生きてるから、大丈夫!!」
「こまさんは思うんよ。
夢の中で怖い体験をさせてもらって、『今の平和って有難いなぁ~』って、心から思うことができるって、ラッキーなんじゃないかな。ってね。
『こわい夢、ありがとう!大事なことを教えてくれて。』って感じかな。」
少年の表情は明らかに変わりました。
考えるような表情ではありましたが、不安な表情とは違っていました。
「来てよかったです。」
お母さんの表情もすてきでした。
(息子さんが「サバゲ―(サバイバルゲーム)に参加したい」と言っているということを、展示の説明をしている時に教えてくださいました。)