「あたらしい憲法のはなし」
「あたらしい憲法のはなし」は、戦後すぐの中学校1年生用社会科の教科書です。文部省が発行しました。
この本では、「憲法」を次のように説明しています。
(略)「國(くに)の仕事は、一日も休むことはできません。また、國を治めてゆく仕事のやりかたは、はっきりときめておかなければなりません。そのためには、いろいろ規則がいるのです。この規則はたくさんありますが、そのうちで、いちばん大事な規則が憲法です。(略)
つまり、日本国憲法は、「國を治めてゆく」立場の人達が守るべき規則ということです。
さらに、「前文」の説明部分に、
これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならないということです。それなら、この前文の考えというのはなんでしょう。いちばん大事な考えが三つあります。それは、「民主主義」と「國際平和主義」と「主権在民主義」です。・・・
これには驚きます!
「憲法をかえるとき」の注意まで、書かれているのです。「前文に書かれた考え方と違う変え方をしてはならない」と。
きっと、悲惨な戦争を繰り返したことを考え、「また、同じようなことになるかもしれない。」という危機感が強くがはたらいたのでしょう。そこには、本当の苦しみを味わった人々の切なる思いがあったのではないでしょうか。
しかし、今まさに、戦力の放棄をうたった「國際平和主義」の考え方と違う変え方をされようとしている気がしてなりません・・・
この教科書では、「民主主義」と「國際平和主義」と「主権在民主義」について、分かりやすい解説が続きます。
まず、「民主主義」について。
次に「國際平和主義」の説明です。私は、「國際」と付いていることに興味を持ちました。
世界中の國が、いくさをしないで、なかよくやってゆくことを、國際平和主義といいます。(略)この國際平和主義をわすれて、じぶんの國のことばかり考えていたので、とうとう戰爭をはじめてしまったのです。
これまたおどろきです。日本のよくなかったところを、子どもでも分かるように明記しているのです!
「失敗したときに、自分のよくなかったところを心から反省して、同じ失敗をしないように考えて行動する努力をすることが大事だよ。そうすれば、失敗が無駄にならない。きっと、前よりステキな自分になれる!むしろ、得になるよ!」
教職在職中に子ども達に言っていた言葉を思い出します。
さらに、次項「戰爭の放棄」へと続きます。
みなさんの中には、こんどの戰爭に、おとうさんやおにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戰爭はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戰爭をして、日本の國はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戰爭は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、こんどの戰爭をしかけた國には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戰爭のあとでも、もう戰爭は二度とやるまいと、多くの國々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戰爭をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
そこでこんどの憲法では、日本の國が、けっして二度と戰爭をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戰爭をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戰力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。(略)
恐ろしい思い、悲しい思いをした子どもたちの心に寄り添いながら、人として正しいことを教える、この文章が、私は好きです。
「正しいことぐらい強いものはありません」
勇気が湧いてきます!
作家井上ひさしさん(1934-2010)は、終戦当時、子どもとして日本国憲法に触れ、「誇らしくていい気分」を味わったとその当時を振り返り、おっしゃっています。
正しいこと(真実)を知り、過ちを認め謝罪し、改めることは、「誇らしくていい気分」という自尊感情につながる感情を刺激するものだと思います。
小学校6年生での社会科の学習中。歴史の学習の終盤~戦前、戦中、そして戦後~のところ。
「基本的人権の尊重」「民主主義」「平和主義」を掲げた日本国憲法ができたことを学習すると、必ずクラスで1人は、「学習の振り返り」に書いたものです。
「自分たちの間違いを認め、失敗を生かした日本人はカッコいいと思います。」
そんな子どもたちの姿を見るたびに、きちんと謝罪をしていない日本と現在の日本の姿を情けなく思うと同時に、「あきらめずに、正しいことを伝えていこう」と、思う自分がいました。
ぜひ一度「あたらしい憲法のはなし」を読んでみませんか。